薬剤師おきたの薬剤師のやりがいや可能性を考える日記

このブログでは薬剤師のやりがいや可能性に繋がる記事を挙げていければと思っています。※ここで扱う症例は架空のものです。

薬局症例#3-2 検討解答編 脱水?嘔気、倦怠感を訴える高齢女性

Q:薬剤師としてできる臨床推論は?

 

【 目次 】

 

嘔気・嘔吐の臨床推論をするため、まず嘔気嘔吐が起こる生理的仕組みを確認し、そこから鑑別疾患を想起していきたいと思います。

(嘔気嘔吐の臨床推論の一般論になるので、わかっている方は下にある【今回の症例】まで飛ばしてください。)

 

【 嘔気・嘔吐の生理的仕組み 】

嘔吐中枢への

①大脳皮質(頭蓋内圧亢進や中枢神経異常、心理的な原因)からの刺激

血液(薬物代謝、細菌、腫瘍)、自律神経を介した化学的刺激によるCTZ(化学受容器引金帯)からの刺激

③前庭器薬物、前庭障害)からの刺激

④末梢(消化器などの臓器による自律神経への機械的刺激(薬物、臓器の運動異常))からの刺激によって起こります。

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【 嘔気嘔吐の鑑別疾患 】

 

中枢神経系

頭蓋内圧上昇(脳血管障害,脳腫瘍,髄膜炎,脳炎など),片頭痛,てんかん,前庭障害(前庭神経炎、メニエール、BPPV、乗り物酔い),内耳炎

消化器系 胃麻痺,過敏性腸炎,神経性胃炎,食道アカラシア,腸重積,腫瘍,幽門狭窄,虫垂炎,胆嚢炎,炎症性腸疾患,腸管膜虚血,肝炎,膵炎,消化性潰瘍,腹膜炎
感染症 急性中耳炎,食中毒,肺炎,突発性細菌性腹膜炎,尿路感染,ウイルス感染(アデノウイルス,ノーウォークウイルス,ロタウイルス
薬剤性 不整脈薬,抗菌薬,抗てんかん薬,抗がん剤,ジゴキシン,エタノール過量摂取,NSAIDs,オピオイド,放射線療法,中毒(ヒ素,有機リン,リシン)
内分泌 副腎疾患,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA),腫瘍随伴症候群,副甲状腺疾患,妊娠,甲状腺疾患,尿毒症
その他 急性緑内障,急性心筋梗塞,腎結石,腎不全,疼痛,精神疾患(神経性食思不振症,不安,過食症,転換性障害,うつ)


など多くの疾患が挙げられ、鑑別にとても苦労するかと思います。

 

したがって、嘔気嘔吐を呈す見逃してはいけない状態を先に除外したいと思います。

 

【 嘔気嘔吐を呈する見逃してはいけない疾患・状態 】

などがあります(1)

 

【一般的に】

危ない疾患を除外するために確認したいのはOnsetになります。特に突発的な症状があったという事象があれば、それは何処か体の管が破れたり、捻じれたり、詰まったことが想像できるため、危ない疾患の可能性が高いと言えます。例えば突然の嘔吐という事象があり、さらに嘔吐したら楽になったという寛解因子や排ガス停止、便秘、腹部膨満感、OPEの既往があるとなればイレウスを強く疑います。

 

【管が詰まると吐く】(1)

体のどこかの管が詰まると人は嘔吐します。例えば脳血管が詰まれば吐きます。心血管が詰まっても腸管が詰まっても胆管や尿管が詰まっても吐きます。したがって、随伴症状でどのあたりが詰まっているのかを検討し危ない疾患かどうかを判断する材料にしたら良いと思います。

 

【下痢の有無】

嘔吐が主訴の場合は、随伴症状の下痢の有無が危ない疾患かどうか判断するための大事な要素となります。嘔吐が主訴となる危ない疾患は下痢が無いことのほうが多いからです。実際、上記に挙げた中毒以外は下痢がないことが多く、比較的危なくない消化器疾患では下痢を伴うことが多いようです。

 

DKAに注意】

他にDKAは意識していないと急性胃腸炎として見落としてしまうと言われています。特徴的な症候としてはKussmaul呼吸(クスマウル呼吸)というものがあるので、DKAを意識してバイタルサインに注意する必要があります。Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシスに起因する、速く深い規則正しい呼吸です(2)。

 

【 今回の症例 】 

今回の患者はほぼ寝たきりの在宅患者なので、脳心血管障害や発熱していなくても肺炎などの感染症DKAが心配になりますが、それは主治医によって除外されています。(高齢者の肺炎は発熱しないこともあります。腎盂腎炎、敗血症までなると高熱が出ます。)嘔吐も突発発症の事象もなくバイタルサインも脱水があるだけで概ね正常であり、危ない疾患ではないようです。また消化器科、脳神経、耳鼻科からも異常なしと言われています。

 

主訴は嘔気、倦怠感、食思不振で「なんとなく気持ちが悪い」という不定愁訴の印象が強く感じられます。

 

このような食思不振、倦怠感、嘔気嘔吐を主訴とした分かりにくい疾患に慢性副腎不全や急性肝炎(ここでは代表してA型肝炎)があります。慢性副腎不全は低血圧以外客観的指標がないので、判断が難しい疾患です。A型肝炎は前駆症状として風邪のような症状の発熱・関節痛・咽頭痛などを示し、その後消化管症状(嘔吐、下痢)や倦怠感(黄疸前期)を呈するので、黄疸が出る前に気づきたい疾患です(3)

 

しかし今回の場合、風邪のような前駆症状はなく消化管症状、黄疸もなく消化器科で異常を指摘されていませんので、A型肝炎の可能性は低いと思われます。

 

 

ここまでで考えられるのは、薬剤性、副腎不全など内分泌疾患、精神疾患などでしょうか。

 

薬剤師としては、内分泌疾患や精神疾患も考慮に入れながら

【薬剤性として】

といったところが考えられるでしょうか。

 

上記2つは結膜貧血がなく消化器科から積極的指摘もなかったので、可能性を低く出来ると思います。逆に下3つは可能性が高いように思えます。

 

なぜなら、この患者のようにCKD患者が脱水状態になり何らかの原因により高カルシウム血症になり、腎不全の急性増悪を起こし、さらに高カルシウム血症を招き腎機能悪化となる負のスパイラル状態になるのは、AKIの注意すべきストーリーだからです。

 

さらにNSAIDs、RAS系阻害薬、チアジド系利尿薬の併用があれば、容易に腎機能悪化を呈します。

 

今回はこれらの併用はありませんでしたが、

主治医には、患者の主訴は持続しており薬剤性の原因として利尿剤による脱水、エルデカルシトールによる高カルシウム血症マグネシウム剤による高マグネシウム血症、アルカローシスが考えられることを上申し、対応を相談することとしました。

 

主治医からは明日にでも検査します。今は薬を変更せず結果が出たら、薬を変更するので対応してくださいと指示されました。

 

【 結果 】 

結果は高カルシウム血症でした。また高カルシウム血症による腎機能悪化も見られました。高カルシウム血症の原因疾患の鑑別が行われ、最終的に利尿剤の減量、エルデカルシトールの中止により状態は改善していきました。(高カルシウム血症の原因としては悪性腫瘍も考えられるので薬剤師が薬剤性だといっても必ずルールアウトが必要です。高カルシウム血症の鑑別に関しては次回以降に書ければと思っています。)

 

今回の症例により特にCKDの高齢女性に対してビタミンD3製剤(特にエルデカルシトール0.75μ、アルファカルシドール1μ、カルシトリオール0.5μ(4))を処方してもらっている時は血清Ca濃度の測定をルーチンに入れてもらったほうが良いということを学びました。

CKD高齢者の場合は低Alb血症であることが多いので、血清Ca以外にAlb値も測り補正する必要があります。

しかし、CKDの患者では補正値が低くてもイオン化Caは高い場合があり、Alb補正式のみだと不適当だとも言われています(5)。

可能であれば、CKD患者の場合はイオン化Caを測定すべき(6)ようです。

 

 

 

参照)

(1)CareneTV『Step by Step!初期診療アプローチ呼吸器・消化器・マイナー症候編 第5回』

(2)日本救急医学会用語解説集

(3)CareneTV『Dr.たけしの本当にスゴい症候診断3-第4回 嘔吐へのアプローチ』

(4)慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の 診療ガイドライン 2012

(5)J Am Soc Nephrol. 2008;19(8):1592.

(6)UpTo Date:Relation between total and ionized serum calcium concentrations