薬剤師おきたの薬剤師のやりがいや可能性を考える日記

このブログでは薬剤師のやりがいや可能性に繋がる記事を挙げていければと思っています。※ここで扱う症例は架空のものです。

病歴聴取の基礎#1-1.患者の外見や言動から情報を得る技術

診断の神様と言われるローレンス・ティアニー先生の言葉に、「診断で重要な要素が3つある。それは病歴、病歴、病歴だ」というものがあります。それほど、病歴を聞き出し患者情報を得ることは重要なことです。

 

病歴聴取において大事な技術は、

  • 患者の外見や言動から情報を得る技術
  • 患者の信頼を得る為の傾聴の技術
  • 型にはめた質問による聞き出す技術

だと思います。

 

【患者の外見や言動から情報を得る技術】

患者の歩き方や表情、目、唇、手や爪、患者の話し方等から情報を得る技術のことです。

 

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ばち状指

 

待ち時間の様子でわかること

患者が待ち時間の割りに異常に落ち着かない

不安症やアカシジア、レストレスレッグス症候群、軽度のセロトニン症候群等を考えることができます。アカシジア錐体外路症状による静座不能の状態のことを言い、抗精神薬(特にドパミンD2遮断作用のある薬)の副作用として現れることが多いとされます。

 

歩き方でわかること

左右の足音が異なる

左右の歩幅が異なるために起こり、脳梗塞既往か何らかの理由で運動機能に障害が出ていると考えられます。

歩幅が小さい

パーキンソンや認知症の方は歩幅が小さい歩き方になります。転倒しやすい歩き方なので注意が必要です。

斜めに進んでしまう

小脳や脊髄に問題があるかもしれません。

前屈みに歩く

脊柱管狭窄症など脊椎や腰に問題を抱える方は前かがみのほうが楽なので、このような姿勢になりがちです。

歩いていても途中で止まって休むを繰り返す

このような歩行を間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。末梢閉塞性疾患や脊柱管狭窄症、慢性コンパートメント症候群、慢性静脈不全症、変形性股関節症、足部・足関節疾患などが考えられますが、多くは腰の神経の病気(脊柱管狭窄症)か足の血管の病気(下肢閉塞性動脈硬化症など)です。下肢閉塞性動脈硬化症は無症候型も多いので、症候性ならしっかり受診勧奨したいところです。

 

話し方でわかること

全体のトーンが異常に高く早口で興奮している

パニック症候群や甲状腺機能亢進症、ある種の神経症や薬物中毒が考えられます。

元気がなくゆっくり話す

話の意味が分かりにくい、説明が回りくどい、元気がない感じでゆっくり話す等の話し方は、甲状腺機能低下症、うつ病認知症などを疑えます。

口をもぐもぐさせたり、舌を出したり入れたりする

オーラルジスキネジアといい、パーキンソン症候群や薬の副作用で起こる場合があります。

発音がおかしい

「がっこう」が「だっこう」になる、口蓋音「ガギグゲゴ」や口唇音「パピプペポ」や舌音「ラリルレロ」などの発音がおかしい場合は、構音障害があるので、脳梗塞や器質的問題があることが考えられます。脳梗塞のサインであれば、すぐに病院を受診するよう手配すべきです。

器質的に問題があるのであれば、誤嚥に注意が必要です。構音障害のテストとしては「パタカ」を繰り返し早口で言ってもらい確認する方法があります。

かすれ声

急に声がかすれ声になった場合は、咽頭炎を思い起こさせますが、これがマフラーをまいたようなこもった声(Muffle voice)や熱いものを食べたときの「はふはふ」というような息や声の出し方(Hot potato voice)は急性喉頭蓋炎、咽後膿瘍、扁桃周囲炎などを考慮できます。これらは急激な気道狭窄で窒息したりと命に係わる病気なのですぐに受診が必要です。

慢性的なかすれ声は慢性咽頭炎甲状腺機能低下症、喫煙、悪性腫瘍(咽頭腫瘍など)、声帯ポリープ、職業性などが考慮できます。

また、反回神経が圧迫などで麻痺状態になってもかすれ声になります。これは喉・甲状腺・食道・肺といったところの癌が反回神経を傷つけいたり、大動脈にこぶができて反回神経を圧迫して麻痺させていたりしているためです。

 口角が下がっている

口元から水がこぼれるなどの訴えから分かることもあります。顔面の左右が非対称ではなく片方の口角が下がっている、鼻から口角へ向かうシワが片方目立たなくなっているなどの症状がみられる場合は顔面神経麻痺、脳梗塞が考えられます。そもそも顔面神経麻痺は脳梗塞で起きる中枢性と顔面神経が脳から顔面に伝わる経路で障害が起きる末梢性があります。中枢性と末梢性の簡単な見分け方は額にシワをよせてもらうことができるかのテストです。麻痺している側のシワ寄せが出来ないのが末梢性で、両方の額のシワ寄せが出来ている場合は中枢性です。

 

呼吸の仕方から分かること

息切れしている

息切れしている場合は、通常、心臓か下気道に原因があると考えますが、ほかにも代謝性アシドーシスや貧血、甲状腺機能亢進症、妊娠、発熱、敗血症、疼痛、過換気症候群、薬物中毒なども考えられます。運動後や労作後の息切れならば、心臓か肺の可能性が高いですが、安静時の息切れは他も考えないといけないので、警戒すべき兆候です。

呼吸回数、深さ共に増加した状態を多呼吸といい、過換気症候群、肺塞栓などが考えられます。呼吸回数に変化はないが深さが増加した状態を過呼吸といい、過換気症候群代謝性アシドーシスなどが考えられます。

異常に深くゆっくりした呼吸

クスマウル呼吸といい、代謝性アシドーシスや尿毒症などで見られます。腹痛の訴えでこの呼吸を見たら糖尿病性ケトアシドーシスの可能性があり、命に係わる疾患なのですぐ受診させるべきです。

無呼吸から深く早い呼吸、浅くゆっくりとした呼吸を周期的に繰り返す

チェーンストークス呼吸といい、重症心不全、脳疾患、薬物中毒で見られます。

浅くて早い呼吸と無呼吸が不規則に一過性に出現する

ビオー呼吸といいます。チェーンストークスと同様に無呼吸と頻呼吸を繰り返しますが、チェーンストークスと異なるのは不規則で一過性という点です。原因疾患としては頭蓋内圧亢進が考えられます。

呼吸にヒュウヒュウと高い音が漏れる

気道閉塞が考えられ、喘息発作はすぐ思いつくと思います。気道閉塞は異物によっても起こりますし、薬の副作用によっても起こります。特に薬剤師としてはACE阻害薬、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬などによる咽頭浮腫には注意したいところです。

寝ている時に呼吸が荒く、上半身を起こすと呼吸が整う

起坐呼吸といいます。寝ている時の肺のうっ血状態を考慮できます。 また体を起こすと肺のうっ血状態が改善したり、横隔膜が下がるので呼吸面積が大きくなり呼吸がしやすくなったりするのだと思われます。原因疾患としてはうっ血性心不全や尿毒症、喘息発作時が考えられます。

 

目を見てわかること

白目が黄色味を帯びている

黄疸が疑われ、肝臓や胆道に障害のある可能性が考えられます。

白目に出血がある

眼球結膜の出血で原因は明確ではありませんが、疲れやストレスで出る方がいます。

眼球が突出している

甲状腺機能亢進症の方にみられます。

瞳孔が震えている

めまい時に起きますが、カルバマゼピンやフェニトインの中毒症状でも発症することが知られています。

瞳孔の大きさが異なる

瞳孔の大きさが左右で異なることを瞳孔不同といいます。生理的瞳孔不同で瞳孔が正常に働いている方も一定数いますが、疾患が原因になる時は眼疾患か神経疾患です。

眼疾患の原因は先天疾患、けが、薬が目に入ったことが多いようです。他にも失明に繋がるので、急性緑内障発作にも注意が必要です。

神経疾患は第3脳神経(動眼神経)か自律神経の異常が原因となります。これらの神経は瞳孔やまぶたの筋肉へと電気信号が送られているので、これらの神経に異常が出た場合、視覚異常やまぶたの垂れ下がり、眼球運動のずれや位置のずれをしばしば併発します。

このような神経に影響する疾患は脳が原因であれば、脳梗塞脳出血、脳腫瘍などがあり、脳以外が原因であれば交感神経系に影響を及ぼす首または胸上部の腫瘍やけが、大動脈瘤などが原因となります。

瞳孔不同の患者に病歴聴取の段階で注意すべき兆候は、複視、視力障害、頭痛または首の痛み、眼痛、けが、無汗症等の自覚症状です。

まぶたが垂れる

眼瞼下垂といいますが、先天性のものと後天性のものがあり、後天性のほとんどは加齢による皮膚のたるみや筋肉の伸びが原因のようです。加齢以外では、ホルネル症候群、重症筋無力症、ミトコンドリア脳症が考慮できます。

前述した交感神経が肺がんや他の腫瘍、首のリンパ節の腫脹、大動脈解離、胸部大動脈瘤、けがなどにより障害された場合に眼瞼下垂を起こしている状態をホルネル症候群といいます。他の特徴としては発汗減少があります。

重症筋無力症は自己免疫疾患で、目の症状だけの場合は眼筋型といいます。

ミトコンドリア脳症の初期症状として眼瞼下垂は知られています。ミトコンドリア脳症は細胞内のミトコンドリアの機能不全により筋や神経、全身臓器で様々な症状を起こします。 

片側のまぶたが腫れる

突然、片側のまぶたが腫れるのはクインケ浮腫というアレルギー浮腫が考えられます。

 

耳を見てわかること

耳たぶにシワがある

耳たぶにある血管が動脈硬化で血流が少なくなると耳たぶの脂肪が萎縮し、シワになります。狭心症脳梗塞の既往を考慮出来ます。

 

唇を見てわかる

 唇が小豆色に変色している

酸素不足によりチアノーゼ(紫色)が起きていることが考えられます。寒冷刺激や精神的ストレスに対する反応としての血管収縮で、単一または複合的に可逆的な変色等が現れます。

酸素不足は血流悪化によるもので、全身の酸素供給状態が悪くなる場合は主に心臓や肺の疾患が疑えます。

対して、一部分に血流が悪化が認められる場合、顎を動かし続けていると動かなくなってくる下顎跛行(かがくはこう)や冷たい物を飲むと舌が痺れたり紫色になったりする、舌のレイノー症状がおこる場合は顎や唇や舌に繋がる血管の閉塞が考えられるので、側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)が疑えます。

この疾患はリウマチ性多発筋痛症の患者に併発しやすいと言われているので、リウマチ性多発筋痛症患者にこの症状がある場合は積極的に併発を疑う方が良いかもしれません。

 唇にほくろのような班がたくさんできている

ポイツ・イェガース症候群という疾患が考えられます。さまざまな上皮性悪性腫瘍のリスクが高いと言われており、口腔内や指先にも色素班が出来ます。

40歳未満の唇の周りにシワができる

老化現象ではないシワができている場合は強皮症という自己免疫疾患が考えられます。強皮症は他にも手の指先のレイノー症状や爪の付け根の内出血や手のひら唇の内側に毛細血管の拡張による赤い斑点などが見られます。

 

 手指や爪を見てわかること

白い手

手のひらが白いのは貧血が考えられます。手のひらのシワまで白い場合は貧血の可能性が高くなります。閉経後の女性や男性で白い手で貧血が疑われる場合は消化管の出血や悪性腫瘍が考えられるので、検査したほうが良いと思われます。

白い指、手のひらの赤い斑点、爪の付け根の出血点

前述した強皮症の症状です。指が冷えることで白くなるのはレイノー症状です。時間とともに紫になり、赤くなります。

指の先端に出来た有痛性紅斑、手のひらの無痛性の紅斑、爪に線状の出血班

感染性心内膜炎の代表的な症状です。指の先端にできた有痛性の紅斑をオスラー結節といいます。皮膚表面は発赤し盛り上がり、中心部は蒼白色になっています。オスラー結節と同様の紅斑ですが、無痛性で手のひらに現れる紅斑はジェーンウェー病変といいます。爪の線状の出血班を爪下線状出血斑といいます。オスラー結節は全身性エリテマトーデスにも現れます。爪下線状出血斑はリウマチ性疾患でも現れ、血管炎の存在を示唆する重要な所見となるようです。

手が黄色い

黄疸や強い貧血、カロチン血症が考えられます。カロチン血症はミカンなどカロチンを多く含むものを食べて血中にカロチンが多くなった状態です。カロチン血症と黄疸の区別は、黄疸は全身で出現するので他の部分、白目部分などを見たらよいと思います。また強い貧血状態だと皮膚は白というより黄色に見えたりします。強い貧血は患者に下まぶたを引っ張ってもらい結膜環を見せてもらえば、白くなっているのがわかると思います。

指関節や爪が黒くなっている

メラノーマやアジソン病、抗がん剤による色素沈着などが考えられます。

ばち状指

機序は明確になっていないようですが、指先がばち状に太くなっている場合は呼吸器疾患、心疾患、肝硬変、炎症性腸疾患などを疑うことができます。

またローレンス・ティアニー先生は「慢性閉塞性肺疾患COPD)の患者でばち指を認めたら、肺癌の可能性がある」と仰ってます。COPDのみではばち指の頻度は低いと考えられ、ヘビースモーカーのCOPD患者にばち指が起こってきたら、肺癌を考慮したほうが良いようです。

ソーセージ様の太い指

指の背がつまめない程腫れた様なソーセージの様な指となっている状態を指します。膠原病が考えられ、レイノー症状も初期症状で起こっていることが多いようです。

匙状爪

貧血の方に多く現れます。多くは鉄欠乏性貧血です。閉経前の女性の場合、貧血を軽視しがちですが、子宮筋腫がある場合があり、婦人科への紹介も考慮したほうが良いと思われます。中にはHb値が5~6程度の低値になっても自覚されていない方もいます。

爪が白くなっている

爪の根元から大部分が白くなっており、遠位端にのみ正常な薄紅色を残している爪をテリー爪といいます。最初に肝硬変の患者で報告されました。肝硬変の他にうっ血性心不全、Ⅱ型糖尿病、慢性腎不全の患者にみられます。腎不全の患者には白い部分が半分まで来ていることが多く、これをリンゼイ爪またはhalf and half nailといいます。

黄色い爪

爪が黄色くなるのは喫煙、薬剤性、爪白癬、爪乾癬、稀ですが黄色爪症候群などが考えられます。黄色爪症候群はリンパ浮腫、呼吸器病変を伴います。

爪に横線が入っている

ボーズラインといいます。全身性疾患(重症感染症心筋梗塞など)や抗がん剤治療薬の既往を示します。全身状態が悪い時に爪の発育が悪くなったことを表します。

震える手指

文字を書こうとしたり、何かしようとするときに震えるのは企図振戦といい、特に高齢者にみられる場合を老人性振戦と言います。患者さんからはパーキンソン病の震えではないか心配になると言われますが、パーキンソン病の場合は、何かしようとするときには震えが止まることが多く、丸薬を丸めるような震え方をします。パーキンソン病のように終始震える場合は、甲状腺機能亢進症、アルコール性、金属の中毒などが疑われます。

 

 

最後に

ここで記述した内容は疾患のリスクを考慮するための一つの材料や情報であり、問診などと合わせて総合的に判断する技術が必要です。

 

しかし、これらの情報は患者の訴えには出てこない事もあるので、取りに行くことが大切だと思います。そうすれば手遅れになる前に患者に隠れている疾患を見つけてあげることも可能かもしれません。