薬剤師おきたの薬剤師のやりがいや可能性を考える日記

このブログでは薬剤師のやりがいや可能性に繋がる記事を挙げていければと思っています。※ここで扱う症例は架空のものです。

薬局症例#4-2 検討編 DPP4阻害薬の副作用を疑い服用拒否を訴える男性

 

89314okita.hatenadiary.jp

 

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今回の症例は高齢発症関節リウマチ(EORA)、リウマチ性多発筋痛症(PMR)に似ていますが、浮腫があるという点がこの両方と異なります。

浮腫の臨床推論は

  1. 全身性か局所性か
  2. 圧痕性か非圧痕性か
  3. 全身状態の状況
  4. 急性か慢性か

を確認することで原因を絞り込めます。

(詳細は今後、別記事で書いていければと思っていますので、ここでは今回の症例について検討していきたいと思います)

 

今回のような四肢(両側性、全身性)の浮腫の原因は心臓、腎臓、肝臓、内分泌(糖尿病、甲状腺疾患)、薬剤性、肺、低栄養、その他(生理的浮腫、成人パルボウイルスB19感染症、NEAE、RS3PEなど)の8つを考慮すると良いと思います。

 

今回の症例は糖尿病患者でDPP4阻害薬を内服中というだけで、他の既往は無いので原因は「糖尿病性」、「薬剤性」または「その他」という所になりそうですが、急性であることや全身状態から「薬剤性」や「その他」の感染症膠原病などを考慮した方がよさそうです。

 

先程挙げた「その他」の中の生理的浮腫は、脂肪浮腫、月経浮腫、妊娠浮腫、特発性浮腫、就下性浮腫を主に指しますが、最初の4つは女性に多かったり女性に特有であったりするので、また最後の就下性浮腫は入院などしている高齢者に多い浮腫なので、今回は可能性が低いと思われます。

 

また成人パルボウイルスB19感染症とNEAE(Non-episodic angioedema with eosinophilia)(非反復性の好酸球増多を伴う血管浮腫)も若年女性に多い疾患なので、可能性が低そうです。

 

「その他」の最後のRS3PEは1985年にMcCartyらによって初めて報告された

  1. 予後の良い(remitting)
  2. 左右対称性(symmetrical)で、
  3. リウマトイド因子が陰性(seronegative)で、
  4. 急性発症する滑膜炎(synovitis)に加え、
  5. 手背足背に強い圧痕性浮腫(pitting edema)を伴う

というひとつのR、3つのSとPittingEdema(PE)の5つが特徴的な疾患です。そのためRS3PEとされたようです。

RS3PEは他にも特徴があり、高齢男性に多く、指の運動制限や痛みを伴い、CRP上昇や赤沈亢進などの炎症所見を伴うことが多いようです。

また本邦において2015年6月にDPP4阻害薬(シタグリプチン)の副作用として添付文書に記載が追加されています。

 

DPP4阻害薬がRS3PEを発症させる機序については明確には分かっていないようですが、DPP4は元々リンパ球の T 細胞表面にも存在するCD26分子の一部を構成する成分なので、T細胞活性作用から免疫機構へ関与する可能性があると考えられています。またDPP4阻害薬内服下では血中VEGF(血管内皮成長因子)が増加すると知られており、それが滑膜の炎症を発症させている可能性があるとも考えられています。

 

もう一度、今回の患者の臨床像を確認すると、

DPP4阻害薬を服用中の患者に急性発症した末梢関節の痛みと四肢の圧痕性浮腫となり、RS3PEのゲシュタルトを捉えることが可能だと思います。

 

実臨床ではRS3PEはEORAやPMRと鑑別が難しいことで知られています。実際、RS3PEの圧痕性浮腫は片側性、下肢のみの場合もあるようですし(1)(2)、EORAでも炎症が強ければ浮腫を伴う為、EORAの約11%はRS3PE様の症状で発症するとの報告もあります(3)。見分け方としては中枢に近い筋痛がなく両側手背に浮腫があればRS3PEと判断して良さそうです。PMRとRS3PEの差は中枢側の滑液包か末梢側の滑膜に炎症が起こるか程度であり、同じ疾患の一部である可能性も報告されています(4)。薬剤師としてはトリアージする先や治療法は同じなので正確に区別をつける必要はないかもしれません。

 

しかし、RS3PEの発症率は50歳以上の外来患者の0.09%(PMRの3分の1程度)との報告(5)もあるように医師の中でも決してメジャーな疾患ではありませんし、副作用としてもあまり知られていないと言っていいでしょう。

 

したがって、薬剤師としてはDPP4阻害薬の副作用としてRS3PEが記載されており、おおまかな病態や似たような疾患を知っておけば、医師の判断の助けになると思われます。

 

今回の対応としては選択肢5のように、EORAや自然発生のRS3PEも疑えるが、DPP4阻害薬によるRS3PEも疑うことができ、薬剤性の場合、当該薬剤を中止すると数日~数週間で症状が軽快することが多いと医師に伝えて、シタグリプチンの処方をどうするか医師と相談するのがよいかと思います。

 

【まとめ】

  • 高齢者の四肢浮腫の原因は心・腎・肝・内分泌・薬・肺・低栄養・その他(就下性浮腫、RS3PE)で考えると病歴を確認しやすい
  • RS3PEは高齢者に急性発症した両側手背に圧痕性浮腫を伴った末梢関節炎
  • RS3PEはDPP4阻害薬の副作用として追加記載されている
  • RS3PEはメジャーな疾患ではないが、副作用として記載されているので、類似疾患と一緒に覚えておくと医師の判断の助けになるかもしれない。
  • DPP4阻害薬が原因の場合、服用中止で症状は軽快する

 

追記:RS3PEは通常、プレドニゾロン10〜15mg/日で著効し軽快するが、治療抵抗を示す場合は腫瘍随伴性またはEORAを疑った方が良いようです。

 

 参照)

(1)olive A. et al. J Rheumatol. 1997 Feb;24(2):333-336.

(2)Kawashiri SY,et al.Rheumatol int.2010 Nov;30(12):1677-1680.

(3)C.T.Pease,et al.Rheumatology 1999;38:228-234

(4)Cantini F,et al. Ann Rheum Dis. 1999 Apr;58(4):230-236.

(5)okumura t.et al. rheumatol int.2012 Jun;32(6):1695-1699