薬剤師おきたの薬剤師のやりがいや可能性を考える日記

このブログでは薬剤師のやりがいや可能性に繋がる記事を挙げていければと思っています。※ここで扱う症例は架空のものです。

薬局症例#4-1 問題編 DPP4阻害薬の副作用を疑い服用拒否を訴える男性

「薬の副作用ではないか?服用をやめていいか?」

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【主訴】

両手のこわばり、掌握運動時の手指関節の痛み、四肢の圧痕性浮腫、倦怠感、微熱、体重減少

【患者情報】

年齢性別:62歳男性

既往:糖尿病

服薬歴:シタグリプチン(1ヶ月前から血糖コントロールが悪くなり服用中)

アレルギー歴:花粉症

嗜好品:飲酒なし、タバコなし

家族歴:母親が関節リウマチ

【現病歴】

2週間前から朝に両手のこわばり、手を握ろうとすると痛みが出現、その後、両手両足背に指で押すと暫く凹んだ状態になる浮腫が出現した。全身状態としては他に倦怠感、微熱、体重減少がある。今日は一般内科定期受診日なので主治医に相談したところ、後日リウマチ膠原病内科を受診する運びとなった。

【重要な陰性所見】

  • 首、肩、股関節、手首などに痛みなし
  • 手足に痺れ、レイノー症状なし
  • 発疹など明らかな皮膚異常所見なし

 

今回は前回と同じ処方内容(28日分)の処方せんを持って来局し、現病歴について話してくれた後に「薬の副作用じゃないかと思っている」ことと「服用をやめておいていいか?」と相談された。医師からは副作用についての言及はなかったとのこと。

 

 

Q:患者は副作用と思っており、服用に抵抗を示している。どのように対応するのが良いか?

 

1.今服用している薬は概ね安全な薬だと返答し、自己判断で勝手に薬をやめないように伝える

 

2.副作用ではなくリウマチの可能性が高いので、薬は服用しておくように伝える

 

3.添付文書に症状の記載はあるとだけ伝えて、患者自身の体調のことは患者自身が医師と話し合うことが大切なので、自分で医師と話すように伝える

 

4.添付文書に症状の記載はあるが、頻度は浮腫に関しては2%未満、四肢痛は頻度不明と副作用ではない可能性の方が高いことを説明し、これ以上は薬局では分からないので、どうしても不安であれば医師と話しをするよう促す

 

5.副作用の可能性を医師に提示し、今後の患者への対応を相談して決める

 

 

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薬局症例#4-2 検討編 DPP4阻害薬の副作用を疑い服用拒否を訴える男性

 

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今回の症例は高齢発症関節リウマチ(EORA)、リウマチ性多発筋痛症(PMR)に似ていますが、浮腫があるという点がこの両方と異なります。

浮腫の臨床推論は

  1. 全身性か局所性か
  2. 圧痕性か非圧痕性か
  3. 全身状態の状況
  4. 急性か慢性か

を確認することで原因を絞り込めます。

(詳細は今後、別記事で書いていければと思っていますので、ここでは今回の症例について検討していきたいと思います)

 

今回のような四肢(両側性、全身性)の浮腫の原因は心臓、腎臓、肝臓、内分泌(糖尿病、甲状腺疾患)、薬剤性、肺、低栄養、その他(生理的浮腫、成人パルボウイルスB19感染症、NEAE、RS3PEなど)の8つを考慮すると良いと思います。

 

今回の症例は糖尿病患者でDPP4阻害薬を内服中というだけで、他の既往は無いので原因は「糖尿病性」、「薬剤性」または「その他」という所になりそうですが、急性であることや全身状態から「薬剤性」や「その他」の感染症膠原病などを考慮した方がよさそうです。

 

先程挙げた「その他」の中の生理的浮腫は、脂肪浮腫、月経浮腫、妊娠浮腫、特発性浮腫、就下性浮腫を主に指しますが、最初の4つは女性に多かったり女性に特有であったりするので、また最後の就下性浮腫は入院などしている高齢者に多い浮腫なので、今回は可能性が低いと思われます。

 

また成人パルボウイルスB19感染症とNEAE(Non-episodic angioedema with eosinophilia)(非反復性の好酸球増多を伴う血管浮腫)も若年女性に多い疾患なので、可能性が低そうです。

 

「その他」の最後のRS3PEは1985年にMcCartyらによって初めて報告された

  1. 予後の良い(remitting)
  2. 左右対称性(symmetrical)で、
  3. リウマトイド因子が陰性(seronegative)で、
  4. 急性発症する滑膜炎(synovitis)に加え、
  5. 手背足背に強い圧痕性浮腫(pitting edema)を伴う

というひとつのR、3つのSとPittingEdema(PE)の5つが特徴的な疾患です。そのためRS3PEとされたようです。

RS3PEは他にも特徴があり、高齢男性に多く、指の運動制限や痛みを伴い、CRP上昇や赤沈亢進などの炎症所見を伴うことが多いようです。

また本邦において2015年6月にDPP4阻害薬(シタグリプチン)の副作用として添付文書に記載が追加されています。

 

DPP4阻害薬がRS3PEを発症させる機序については明確には分かっていないようですが、DPP4は元々リンパ球の T 細胞表面にも存在するCD26分子の一部を構成する成分なので、T細胞活性作用から免疫機構へ関与する可能性があると考えられています。またDPP4阻害薬内服下では血中VEGF(血管内皮成長因子)が増加すると知られており、それが滑膜の炎症を発症させている可能性があるとも考えられています。

 

もう一度、今回の患者の臨床像を確認すると、

DPP4阻害薬を服用中の患者に急性発症した末梢関節の痛みと四肢の圧痕性浮腫となり、RS3PEのゲシュタルトを捉えることが可能だと思います。

 

実臨床ではRS3PEはEORAやPMRと鑑別が難しいことで知られています。実際、RS3PEの圧痕性浮腫は片側性、下肢のみの場合もあるようですし(1)(2)、EORAでも炎症が強ければ浮腫を伴う為、EORAの約11%はRS3PE様の症状で発症するとの報告もあります(3)。見分け方としては中枢に近い筋痛がなく両側手背に浮腫があればRS3PEと判断して良さそうです。PMRとRS3PEの差は中枢側の滑液包か末梢側の滑膜に炎症が起こるか程度であり、同じ疾患の一部である可能性も報告されています(4)。薬剤師としてはトリアージする先や治療法は同じなので正確に区別をつける必要はないかもしれません。

 

しかし、RS3PEの発症率は50歳以上の外来患者の0.09%(PMRの3分の1程度)との報告(5)もあるように医師の中でも決してメジャーな疾患ではありませんし、副作用としてもあまり知られていないと言っていいでしょう。

 

したがって、薬剤師としてはDPP4阻害薬の副作用としてRS3PEが記載されており、おおまかな病態や似たような疾患を知っておけば、医師の判断の助けになると思われます。

 

今回の対応としては選択肢5のように、EORAや自然発生のRS3PEも疑えるが、DPP4阻害薬によるRS3PEも疑うことができ、薬剤性の場合、当該薬剤を中止すると数日~数週間で症状が軽快することが多いと医師に伝えて、シタグリプチンの処方をどうするか医師と相談するのがよいかと思います。

 

【まとめ】

  • 高齢者の四肢浮腫の原因は心・腎・肝・内分泌・薬・肺・低栄養・その他(就下性浮腫、RS3PE)で考えると病歴を確認しやすい
  • RS3PEは高齢者に急性発症した両側手背に圧痕性浮腫を伴った末梢関節炎
  • RS3PEはDPP4阻害薬の副作用として追加記載されている
  • RS3PEはメジャーな疾患ではないが、副作用として記載されているので、類似疾患と一緒に覚えておくと医師の判断の助けになるかもしれない。
  • DPP4阻害薬が原因の場合、服用中止で症状は軽快する

 

追記:RS3PEは通常、プレドニゾロン10〜15mg/日で著効し軽快するが、治療抵抗を示す場合は腫瘍随伴性またはEORAを疑った方が良いようです。

 

 参照)

(1)olive A. et al. J Rheumatol. 1997 Feb;24(2):333-336.

(2)Kawashiri SY,et al.Rheumatol int.2010 Nov;30(12):1677-1680.

(3)C.T.Pease,et al.Rheumatology 1999;38:228-234

(4)Cantini F,et al. Ann Rheum Dis. 1999 Apr;58(4):230-236.

(5)okumura t.et al. rheumatol int.2012 Jun;32(6):1695-1699

薬局症例#1-4(2)補足説明

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【デキストロメトルファン代謝経路】

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出典:Lowry et al., J Drug Metab Toxicol 2012

 

デキストロメトルファン代謝経路は上記にあるように2経路の代謝経路があり、どちらの経路もCYP2D6が関わっているため、CYP2D6による代謝が遅れてしまうと血中濃度が上昇します。

 

実際に欧米では、CYP2D6の阻害薬であるキニジンと合剤にしてデキストロメトルファン血中濃度を保つように設計された薬剤が、情動調節障害の治療薬として承認されています。

 

 

セロトニン症候群(2)(3)について】

通常は薬物に関連した中枢神経系におけるセロトニン作動活性の亢進によって生じる生命を脅かす可能性のある病態を指します。

症状としては、精神状態の変化、高体温、自律神経および神経筋の活動亢進などがあります。

ほとんどの場合、薬物の用量変更または開始から24時間以内に現れ、その大部分は6時間以内に起こります。

臨床像の重症度には大きな幅があり、

精神状態の変化:不安,興奮および不穏,驚きやすさ,せん妄
自律神経の活動亢進:頻脈,高血圧,高体温,発汗,シバリング,嘔吐,下痢
神経筋の活動亢進:振戦,筋緊張亢進または筋硬直,ミオクローヌス,反射亢進,クローヌス(眼球クローヌスを含む),伸展性足底反応
のいずれかを示し、神経筋の活動亢進は上肢よりも下肢において顕著なようです。

 

 

セロトニン症候群はSSRIを過剰摂取した人の15%で発症しているとの報告もあり(4)、ある調査では85%の医師がこの症候群を見落としているとの報告もあります(5)

薬剤師としては、専門医ではない医師が関わる際や相互作用によって過剰摂取になってしまう場合、軽微な症例で見落とされやすい場合に特に注意しておきたいと感じた症例でした。

 

【tips】

  • 発熱で疑うのは3つ。感染症膠原病、悪性腫瘍。その他に薬剤性などがある。
  • 感染症を疑っているときの病歴チェックにSTSTAというのがある
  • VCDはしばしば喘息として診断されていることがある。

 

【まとめ】

  • フレカイニドで不整脈、プロパフェノンでめまいやふらつきという中枢性の副作用は血中濃度が上昇しすぎたことによる副作用なので、そのような副作用が出た患者はCYP2D6PMの可能性がある
  • セロトニン症候群はSSRIを過剰摂取した人の15%で発症している
  • 85%の医師がセロトニン症候群を見落としているという報告がある
  • セロトニン症候群は疑ってかからないと見落としてしまうことが多いので、発症しやすい条件を整理しておく必要がある

 

参照)

(1)Clin Pulm Med 2006;13(2):73-86

(2)MSDマニュアル

(3)UpToDate

(4)Isbister GK, Bowe SJ, Dawson A, Whyte IM. J Toxicol Clin Toxicol. 2004; 42(3):227-85

(5)Mackay FJ, Dunn NR, Mann RD. Br J Gen Pract. 1999 Nov; 49(448):871-4.

薬局症例#1-4(1)補足解説

薬局症例#1での追加質問の意図、推論理由を補足的に説明する為に追加しました。

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 【昨日の咳と今日の症状は同じ疾患が原因か?】 

まず質問された咳止めの服用については、(咳は防御反応なのでQOLに影響がなければ、または)咳が出ていないのであれば、通常咳止めは必要ないと判断できます。

しかし、今日の症状は咳止めが原因ではないかという思いがあったので、昨日の咳と今日の症状の関係性について先に確認が必要でした。

 

今日の症状のひとつの

発熱で主に疑う疾患は、感染症膠原病と悪性腫瘍の3つであり、その他に薬剤性などがあります。

今回の症例は咳嗽後の発熱と嘔気、めまいだったので感染症の疑いは残っていました。

そこでSTSTA(※)の質問で感染症の可能性が上がるか確認しました。

感染症を疑っている時のチェックリストとしてはSTSTAというものがあります。

・Sick contact:発熱や急病の人が周囲にいたか。
・TB contact:結核または疑い例が周囲にいたか。
・Sexual contact:性行為の有無。
・Travel history:海外渡航
・Animal contact:動物の接触

これらの頭文字をとったものです。

 

はじめに、周りに同じような症状の人がいないか、旅行したり動物と関わったりしていないかを確認しましたが、特に感染症の可能性を引き上げる返答はありませんでした。

 

次に、昨日の咳と本日の発熱などの症状は別の原因によるものと考えて質問をしたところ、咳止め服用後に今回の症状が出ていることや待ち時間や服薬指導中の患者の様子が落ち着きがなく、不安や焦燥感が強いことから薬剤性によるセロトニン症候群の疑いを強めました。

 

咳に関しては、症状が一時的であり、パニック症候群の既往や咳出現時のストレス付加などを考慮すると、*VCDなど心因的な理由により出現していたものではないかと考えました。 

(*VCD(vocal cord dysfunction)声帯機能不全は20歳から40歳の女性でより頻繁にみられ、病因は不明であるが,不安,抑うつ心的外傷後ストレス障害,およびパーソナリティ障害に関連していると考えられています。VCD患者の32%はVCDの診断の前に誤って喘息と診断されているという報告もあります。(1))

 

そして、患者の母親の副作用歴であるフレカイニドでの不整脈、プロパフェノンでのめまいやふらつきなどの中枢性の副作用は、CYP2D6欠損の患者に起こることでも知られています。その娘であるこの患者も同様の可能性が考えられたので、最初から注意しなければいけないと思っていたのが、気づきになる最大の要因だったかもしれません。

 

事実、今回の症例はCYP2D6の働きが悪い可能性がある患者に、それを強く阻害するパロキセチンが開始され、続いてCYP2D6で代謝されるデキストロメトルファンが追加されたことで、デキストロメトルファン血中濃度が上昇しセロトニン症候群を発症したというケースでした。

 

薬局症例#3-2 検討解答編 脱水?嘔気、倦怠感を訴える高齢女性

Q:薬剤師としてできる臨床推論は?

 

【 目次 】

 

嘔気・嘔吐の臨床推論をするため、まず嘔気嘔吐が起こる生理的仕組みを確認し、そこから鑑別疾患を想起していきたいと思います。

(嘔気嘔吐の臨床推論の一般論になるので、わかっている方は下にある【今回の症例】まで飛ばしてください。)

 

【 嘔気・嘔吐の生理的仕組み 】

嘔吐中枢への

①大脳皮質(頭蓋内圧亢進や中枢神経異常、心理的な原因)からの刺激

血液(薬物代謝、細菌、腫瘍)、自律神経を介した化学的刺激によるCTZ(化学受容器引金帯)からの刺激

③前庭器薬物、前庭障害)からの刺激

④末梢(消化器などの臓器による自律神経への機械的刺激(薬物、臓器の運動異常))からの刺激によって起こります。

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【 嘔気嘔吐の鑑別疾患 】

 

中枢神経系

頭蓋内圧上昇(脳血管障害,脳腫瘍,髄膜炎,脳炎など),片頭痛,てんかん,前庭障害(前庭神経炎、メニエール、BPPV、乗り物酔い),内耳炎

消化器系 胃麻痺,過敏性腸炎,神経性胃炎,食道アカラシア,腸重積,腫瘍,幽門狭窄,虫垂炎,胆嚢炎,炎症性腸疾患,腸管膜虚血,肝炎,膵炎,消化性潰瘍,腹膜炎
感染症 急性中耳炎,食中毒,肺炎,突発性細菌性腹膜炎,尿路感染,ウイルス感染(アデノウイルス,ノーウォークウイルス,ロタウイルス
薬剤性 不整脈薬,抗菌薬,抗てんかん薬,抗がん剤,ジゴキシン,エタノール過量摂取,NSAIDs,オピオイド,放射線療法,中毒(ヒ素,有機リン,リシン)
内分泌 副腎疾患,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA),腫瘍随伴症候群,副甲状腺疾患,妊娠,甲状腺疾患,尿毒症
その他 急性緑内障,急性心筋梗塞,腎結石,腎不全,疼痛,精神疾患(神経性食思不振症,不安,過食症,転換性障害,うつ)


など多くの疾患が挙げられ、鑑別にとても苦労するかと思います。

 

したがって、嘔気嘔吐を呈す見逃してはいけない状態を先に除外したいと思います。

 

【 嘔気嘔吐を呈する見逃してはいけない疾患・状態 】

などがあります(1)

 

【一般的に】

危ない疾患を除外するために確認したいのはOnsetになります。特に突発的な症状があったという事象があれば、それは何処か体の管が破れたり、捻じれたり、詰まったことが想像できるため、危ない疾患の可能性が高いと言えます。例えば突然の嘔吐という事象があり、さらに嘔吐したら楽になったという寛解因子や排ガス停止、便秘、腹部膨満感、OPEの既往があるとなればイレウスを強く疑います。

 

【管が詰まると吐く】(1)

体のどこかの管が詰まると人は嘔吐します。例えば脳血管が詰まれば吐きます。心血管が詰まっても腸管が詰まっても胆管や尿管が詰まっても吐きます。したがって、随伴症状でどのあたりが詰まっているのかを検討し危ない疾患かどうかを判断する材料にしたら良いと思います。

 

【下痢の有無】

嘔吐が主訴の場合は、随伴症状の下痢の有無が危ない疾患かどうか判断するための大事な要素となります。嘔吐が主訴となる危ない疾患は下痢が無いことのほうが多いからです。実際、上記に挙げた中毒以外は下痢がないことが多く、比較的危なくない消化器疾患では下痢を伴うことが多いようです。

 

DKAに注意】

他にDKAは意識していないと急性胃腸炎として見落としてしまうと言われています。特徴的な症候としてはKussmaul呼吸(クスマウル呼吸)というものがあるので、DKAを意識してバイタルサインに注意する必要があります。Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシスに起因する、速く深い規則正しい呼吸です(2)。

 

【 今回の症例 】 

今回の患者はほぼ寝たきりの在宅患者なので、脳心血管障害や発熱していなくても肺炎などの感染症DKAが心配になりますが、それは主治医によって除外されています。(高齢者の肺炎は発熱しないこともあります。腎盂腎炎、敗血症までなると高熱が出ます。)嘔吐も突発発症の事象もなくバイタルサインも脱水があるだけで概ね正常であり、危ない疾患ではないようです。また消化器科、脳神経、耳鼻科からも異常なしと言われています。

 

主訴は嘔気、倦怠感、食思不振で「なんとなく気持ちが悪い」という不定愁訴の印象が強く感じられます。

 

このような食思不振、倦怠感、嘔気嘔吐を主訴とした分かりにくい疾患に慢性副腎不全や急性肝炎(ここでは代表してA型肝炎)があります。慢性副腎不全は低血圧以外客観的指標がないので、判断が難しい疾患です。A型肝炎は前駆症状として風邪のような症状の発熱・関節痛・咽頭痛などを示し、その後消化管症状(嘔吐、下痢)や倦怠感(黄疸前期)を呈するので、黄疸が出る前に気づきたい疾患です(3)

 

しかし今回の場合、風邪のような前駆症状はなく消化管症状、黄疸もなく消化器科で異常を指摘されていませんので、A型肝炎の可能性は低いと思われます。

 

 

ここまでで考えられるのは、薬剤性、副腎不全など内分泌疾患、精神疾患などでしょうか。

 

薬剤師としては、内分泌疾患や精神疾患も考慮に入れながら

【薬剤性として】

といったところが考えられるでしょうか。

 

上記2つは結膜貧血がなく消化器科から積極的指摘もなかったので、可能性を低く出来ると思います。逆に下3つは可能性が高いように思えます。

 

なぜなら、この患者のようにCKD患者が脱水状態になり何らかの原因により高カルシウム血症になり、腎不全の急性増悪を起こし、さらに高カルシウム血症を招き腎機能悪化となる負のスパイラル状態になるのは、AKIの注意すべきストーリーだからです。

 

さらにNSAIDs、RAS系阻害薬、チアジド系利尿薬の併用があれば、容易に腎機能悪化を呈します。

 

今回はこれらの併用はありませんでしたが、

主治医には、患者の主訴は持続しており薬剤性の原因として利尿剤による脱水、エルデカルシトールによる高カルシウム血症マグネシウム剤による高マグネシウム血症、アルカローシスが考えられることを上申し、対応を相談することとしました。

 

主治医からは明日にでも検査します。今は薬を変更せず結果が出たら、薬を変更するので対応してくださいと指示されました。

 

【 結果 】 

結果は高カルシウム血症でした。また高カルシウム血症による腎機能悪化も見られました。高カルシウム血症の原因疾患の鑑別が行われ、最終的に利尿剤の減量、エルデカルシトールの中止により状態は改善していきました。(高カルシウム血症の原因としては悪性腫瘍も考えられるので薬剤師が薬剤性だといっても必ずルールアウトが必要です。高カルシウム血症の鑑別に関しては次回以降に書ければと思っています。)

 

今回の症例により特にCKDの高齢女性に対してビタミンD3製剤(特にエルデカルシトール0.75μ、アルファカルシドール1μ、カルシトリオール0.5μ(4))を処方してもらっている時は血清Ca濃度の測定をルーチンに入れてもらったほうが良いということを学びました。

CKD高齢者の場合は低Alb血症であることが多いので、血清Ca以外にAlb値も測り補正する必要があります。

しかし、CKDの患者では補正値が低くてもイオン化Caは高い場合があり、Alb補正式のみだと不適当だとも言われています(5)。

可能であれば、CKD患者の場合はイオン化Caを測定すべき(6)ようです。

 

 

 

参照)

(1)CareneTV『Step by Step!初期診療アプローチ呼吸器・消化器・マイナー症候編 第5回』

(2)日本救急医学会用語解説集

(3)CareneTV『Dr.たけしの本当にスゴい症候診断3-第4回 嘔吐へのアプローチ』

(4)慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の 診療ガイドライン 2012

(5)J Am Soc Nephrol. 2008;19(8):1592.

(6)UpTo Date:Relation between total and ionized serum calcium concentrations 

 

 

 

薬局症例#3‐1 問題編 脱水?嘔気、倦怠感を訴える高齢女性

CKD、心不全脳梗塞で加療中の85歳女性。

4週間前から嘔気、倦怠感、食思不振を訴えている。

 

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【患者情報】

  • 年齢性別:85歳女性
  • 既往:CKD、心不全脳梗塞(左半身不全)
  • 在宅患者。医師と1週間ずらして在宅患者宅へ薬剤師が訪問している。ほぼ寝たきりだが、意識は清明で、意思疎通はしっかりできる患者である。
  • 服用薬:アスピリン腸溶剤100mg1T、PPI通常量1T、Ca拮抗薬通常量1T、トルバプタン7.5mg0.5T、フロセミド20mg1T、エルデカルシトール0.75μg1Cap、マグネシウム製剤
  • 現病歴:4週間前から「なんとなく気持ちが悪く、だるい」と持続する嘔気、倦怠感、食思不振を訴えている。
  • バイタルサイン:Bp138/65 呼吸数16回/分 KT36.3度 spO2;97%(室内)
  • 身体所見:結膜貧血なし、黄疸なし、口腔内乾燥著明。
  • 経緯:4週間前から嘔気、倦怠感、食思不振を訴えており、3週間前に医師が診察した。医師は心不全の急性増悪と狭心症、肺炎などの感染症高血糖を否定したが、その場では診断がつかなかった。消化器科と(診察時にはめまいがあったので)脳神経・耳鼻科にコンサルトされたが、異常はなかった。1週間後に主治医再診予定である。
  • その他の重要な陰性所見:嘔吐なし。下痢なし。腹痛なし。抗がん剤治療、放射線治療なし。転倒、頭を打ったことなどはない。

 

Q:薬剤師としてできる臨床推論は?

 

症例2で医師国家試験を解く

ちなみに症例2がわかるようになると医師国家試験が解けるようになります。

 

誤解のないように先に申し上げておくと、薬剤師がミニドクターになることを望んでこのブログを書いているわけではありません。薬剤師の軸足は薬学にあるべきです。ですが、臨床推論や病態の学びが疎かだと医師の考えが分からないまま薬の副作用のことばかりを訴えてしまいます。臨床推論のスキルは医師にはもちろん患者に納得してもらう為の知識やスキルとなると信じています。

 

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医師国試過去問

81歳の女性。
2ヵ月前に頭痛と頸部から上腕にかけての
筋痛とが出現し、体重が3kg減少した。
精密検査を希望して来院した。
家族の話では最近元気がなく、
朝起きるのが困難なようであるという。
右側の浅側頭動脈は索状に触知し、圧痛を伴う。
右側頸部に血管雑音を聴取する。抗核抗体陰性。

この疾患について正しいのはどれか。3つ選べ。

a 視力障害をきたす。
b リウマトイド因子は強陽性を示す。
c 赤沈は促進しない。
d 生検で巨細胞性動脈炎を認める。
e 副腎皮質ステロイド薬が有効である。

 

 

 

 

 

答えade

 

 

「81歳の女性。
2ヵ月前に頭痛と頸部から上腕にかけての
筋痛とが出現し、体重が3kg減少した。」

「家族の話では最近元気がなく、
朝起きるのが困難なようであるという。」

これらはPMRを連想させます。

 

「右側の浅側頭動脈は索状に触知し、圧痛を伴う。
右側頸部に血管雑音を聴取する。」

これらは巨細胞性動脈炎を連想させます。

 

 

○a 視力障害は本疾患の典型的症候である。

×b リウマトイド因子は陽性とはならない。

×c 赤沈、CRPなどの炎症反応は陽性となる。

○d 生検では巨細胞の浸潤を伴う肉芽腫の形成を認める。

○e 治療はPSL30~60mg/日より開始し、翌日~1週間以内に寛解する。再燃する可能性があり、1年以上にわたって漸減する。