薬剤師おきたの薬剤師のやりがいや可能性を考える日記

このブログでは薬剤師のやりがいや可能性に繋がる記事を挙げていければと思っています。※ここで扱う症例は架空のものです。

薬局症例#1-4(1)補足解説

薬局症例#1での追加質問の意図、推論理由を補足的に説明する為に追加しました。

89314okita.hatenadiary.jp

 【昨日の咳と今日の症状は同じ疾患が原因か?】 

まず質問された咳止めの服用については、(咳は防御反応なのでQOLに影響がなければ、または)咳が出ていないのであれば、通常咳止めは必要ないと判断できます。

しかし、今日の症状は咳止めが原因ではないかという思いがあったので、昨日の咳と今日の症状の関係性について先に確認が必要でした。

 

今日の症状のひとつの

発熱で主に疑う疾患は、感染症膠原病と悪性腫瘍の3つであり、その他に薬剤性などがあります。

今回の症例は咳嗽後の発熱と嘔気、めまいだったので感染症の疑いは残っていました。

そこでSTSTA(※)の質問で感染症の可能性が上がるか確認しました。

感染症を疑っている時のチェックリストとしてはSTSTAというものがあります。

・Sick contact:発熱や急病の人が周囲にいたか。
・TB contact:結核または疑い例が周囲にいたか。
・Sexual contact:性行為の有無。
・Travel history:海外渡航
・Animal contact:動物の接触

これらの頭文字をとったものです。

 

はじめに、周りに同じような症状の人がいないか、旅行したり動物と関わったりしていないかを確認しましたが、特に感染症の可能性を引き上げる返答はありませんでした。

 

次に、昨日の咳と本日の発熱などの症状は別の原因によるものと考えて質問をしたところ、咳止め服用後に今回の症状が出ていることや待ち時間や服薬指導中の患者の様子が落ち着きがなく、不安や焦燥感が強いことから薬剤性によるセロトニン症候群の疑いを強めました。

 

咳に関しては、症状が一時的であり、パニック症候群の既往や咳出現時のストレス付加などを考慮すると、*VCDなど心因的な理由により出現していたものではないかと考えました。 

(*VCD(vocal cord dysfunction)声帯機能不全は20歳から40歳の女性でより頻繁にみられ、病因は不明であるが,不安,抑うつ心的外傷後ストレス障害,およびパーソナリティ障害に関連していると考えられています。VCD患者の32%はVCDの診断の前に誤って喘息と診断されているという報告もあります。(1))

 

そして、患者の母親の副作用歴であるフレカイニドでの不整脈、プロパフェノンでのめまいやふらつきなどの中枢性の副作用は、CYP2D6欠損の患者に起こることでも知られています。その娘であるこの患者も同様の可能性が考えられたので、最初から注意しなければいけないと思っていたのが、気づきになる最大の要因だったかもしれません。

 

事実、今回の症例はCYP2D6の働きが悪い可能性がある患者に、それを強く阻害するパロキセチンが開始され、続いてCYP2D6で代謝されるデキストロメトルファンが追加されたことで、デキストロメトルファン血中濃度が上昇しセロトニン症候群を発症したというケースでした。