オッカムの剃刀とヒッカムの格言
【目次】
臨床推論のルールに
オッカムの剃刀とヒッカムの格言
というものがあるそうです。
【オッカムの剃刀】
オッカムの剃刀(かみそり)とは…
「観察される全ての事象は1つの原因に収れん出来る」という考え方です。つまり、色々な症状がある患者に対して色々な疾患が併存しているのではなく、色々な症状を起こしている一つの疾患があると追求する方が妥当だという考え方だそうです。
「見た目は子供、頭脳は大人」の某名探偵風に言うと「真実はいつも1つ」ということでしょうか。
ちなみに海外ドラマの「ドクターハウス」シーズン1 第3話『多すぎた病名』でオッカムの剃刀の話が出てきます。内容はうろ覚えなので、気になる方は観ていただきたいです。
【ヒッカムの格言】
ヒッカムの格言とは…
「どの患者も偶然に複数の疾患に罹患しうることがある」という考え方です。特にコモン・ディジーズは複数同時に併存することも多いのだから、原因追求も複数の疾患に向けて行うべきという感じだそうです。
この二つのルールは全く逆の話になるのですが、ハリソン内科学のハリソン先生は、50歳未満ではオッカムの剃刀が、50歳以上ではヒッカムの格言の傾向が強くなると仰っており、二つのルールをうまく併存させながら判断して行くのが重要な様です。
ここで私がこのルールのことを思い出した2つの失敗例を紹介したいと思います。
【オッカムの剃刀だった症例】
ある70代の糖尿病歴の長い男性患者の服薬指導時に「結構前に足をくじいてから、ちょっと歩くと動かなくなるから運動できないんだよねぇ」と言われた症例です。
この時は糖尿病患者が単に足をくじいただけと思ったんですが、薬歴を見た別の薬剤師から「これ間欠性跛行(かんけつせいはこう)じゃないですか?」と言われました。
(※間欠性跛行とは、『一定の距離を歩くと、ふくらはぎなどにうずくような痛みやしびれ・疲労感があって歩行が次第に困難になり、しばらく休息すると治まるものの、また歩き続けると再び痛みだすという症状』のことです(厚生労働省eヘルスネットより引用)。原因の多くは血管性と神経性の2つに分けられ、ほとんどが下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)か脊柱管狭窄症です。)
私はハッとしました。
糖尿病患者が足をくじいたという関係のない別々の話ではなく、糖尿病患者だからASOを起こして、足をくじいたように感じた間欠性跛行の症状が出ていたのです。足をくじいてから時間が経っていたのに、治っていないという点も無視していました。
すぐトレーシングレポートを書いて主治医に服薬指導時の経緯を伝え、主治医がコンサルして下さいました。
【ヒッカムの格言だった症例】
これもASOの症例でした。
普段から高血圧で来局されている50代のヘビースモーカーの患者さんで、間欠性跛行の症状で整形を受診し脊柱管狭窄症の診断を受けて痛み止めをもらいに来ました。
すでに整形から脊柱管狭窄症の診断を受けていたので、間欠性跛行の症状はそれのせいだろうと思い、患者さんに内科等で血管の検査もしてもらうようにと強く勧めませんでした。
患者には「足の血管が原因になってることもあるから、心配なら内科にも相談するようにね」程度で済ませていました。
患者は強く勧められていないので自分から内科に相談することなく、暫く経ってASOが進行して内科の先生が手足の血圧の差がかなりあるのに気付いてASOも併存していたことが分かりました。紹介先でこんなになっても相談しないなんて...と言われたそうです。(相談すらされてないのに気付いた先生は本当に素晴らしい先生だと思いました)
間欠性跛行の症状に対して脊柱管狭窄症があるということは、ASOをルールアウト出来るわけではないと思い知りました。
この患者さんは整形も内科もかかっていることを知っている薬剤師に相談はしていたのに...両者の併存をもう少し強く疑っていれば、内科の先生に相談するよう強く勧められたのに...もう少し早く処置されていたかも...と思うと悔やまれました。
今回はハリソン先生のルールからは、ずれてしまいましたが、2つのルールは頭に入れておくと良いと思います。
皆様には私の失敗からご自身の成功に繋げていただければ幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
追記:ASOは近年ではPAD(末梢動脈疾患)と言うべきなのかもしれませんが、ブログですのであえて馴染みのあるASOの方を使わせていただきました。