薬局症例#2-3 解答編 持続する頭痛を訴える高齢女性
【 目次 】
【 再質問 】
上肢Barre兆候問題なし。
薬剤師「薬局に知らせていない薬はないですか?一回使用しただけでも。もしくは市販の薬とか家庭や旦那さんが使用している農薬とか」
患者「いや、ないよ」
薬剤師「視覚障害についてお聞きしたいのですが、黒いカーテンが降りてくるような感じではありませんでしたか?」
患者「そうそう、まさにそんな感じだった。」
薬剤師(一過性の黒内障発作のようだ)
薬剤師「物が二重に見えたり、霧がかかったようにぼやけていませんか?」
患者「ないです」
(巨細胞性動脈炎でも複視や霧視はよくみられる症状だが今回はなし)
薬剤師「顎の痛みは持続していますか?」
患者「食事をしていると、だんだんと顎が痛くなり、力が入らなくなるし、味も分からなくなる。特に冷たいものを飲むと直ぐに味が分からなくなるし、動かしづらくなる」
一年前の原因不明の既往をPMRだとすれば、高齢者の側頭部持続痛、拍動性の痛み、髪をすく時に痛む、美容院で指摘された発赤、一過性の黒内障発作、下顎跛行、舌のレイノー症状とすべてが一元的に巨細胞性動脈炎で説明出来る。
【 結論 】
やはり
巨細胞性動脈炎(GCA)
が最も疑わしいと考えた。
治療はステロイドで行う。
ステロイドの量は状態によって異なるので、血管炎症候群の診療ガイドラインを参照して下さい。
【 対応 】
巨細胞性動脈炎は失明のリスクがあるので速やかに治療を行う必要がある。主治医かリウマチ膠原病内科にすぐ診てもらえるよう手配する。
【 Point 】
薬局症例#2-2 検討編 持続する頭痛を訴える高齢女性
【目次】
【前回の問いに対する私の答え】
これが国家試験的であれば5の選択肢はないので3の選択肢が正解です。
実際も3.のすぐに受診勧奨するでも良いと思いますが、患者が受診を嫌がっているので根拠をもって説明出来るでしょうか?説得出来ず患者が受診せずに何かあったら、患者の自己責任ですが後悔しませんか?様子を見るという他の回答も待てる理由がありません。受診勧奨するにしても経過観察するにしても根拠を持ちたかったので、選択肢5のように
今回はもう少し詳しく病歴聴取することとしました。
(痛みの聴取の時は特にLQQTSFA/OPQRSTといった型を使って確認すると網羅的に確認できます)
【主訴】
右側頭部の痛み
【既往症状】
#1.高血圧
#2.緑内障(レーザー治療済)
#3.1年前の原因不明の両肩、右臀部の痛み、微熱、貧血、食欲不振、体重減少、倦怠感
【頭痛の病歴聴取】
L(部位)右側頭部表面
Q(性状)拍動性の鈍い穿刺痛
Q(程度)我慢できない程ではない/STAS-Jで2/10段階評価で3~4
T(時間経過)1ヶ月前からムラのある痛み。1週間前から我慢できない程ではない持続した痛みになった。
S(発症状況)突発ではない。徐々に。
F(増悪寛解因子)髪をとかすと痛い。
A(随伴症状)1週間くらい前に一時的な視覚障害があり、近いうちに眼科に行く予定。食事量が減っている。あごまで痛くなるから。しびれはない。体に痛みはない。嘔気、嘔吐なし。めまいなし。寝汗なし。
【パターン認識で思いつく疾患】
#1.片頭痛
#2.帯状疱疹
#3.貨幣状頭痛
【仮説演繹法で考える】
[可能性が比較的高いと思われるもの]
合う所:表面の痛み、髪をすく時に痛みが増す、穿刺痛、持続する痛み、あごまでの痛み
合わない所:一過性の視覚障害、原因不明の既往
貨幣状頭痛
合う所:表面の痛み、部分的な痛み、持続する痛み
合わない所:一過性の視覚障害、あごまでの痛み、原因不明の既往
[可能性が低いと思われるもの]
合う所:側頭部の痛み、拍動性の痛み、一過性の視覚障害
合わない所:我慢できる痛み、2週間持続する痛み、原因不明の既往、高齢
(片頭痛の痛みは通常続いても3日程度と言われている。また高齢という点も片頭痛の可能性をかなり下げる)
ここで挙げた疾患では合わない点も多いので、見逃してはいけない疾患を検討し、それでも見当がつかないときはVINDICATE‐P(疾患別カテゴリー)で網羅的に検討したい。
【見逃してはいけない頭痛】
■くも膜下出血:突発性ではなく、痛みも最初はムラがあるし、合致する点があまりないので可能性は低いように思われる。
■脳卒中:痺れなし、表情、構音問題なし。視覚障害が気になるので、再質問で確認する。念の為、上肢Barre兆候も確認したい。
(上肢Barre兆候は腕をお盆を持つようにしっかり前に出してもらい、両眼を閉じてもらって片腕が下がらないか確認するテストです。)
■髄膜炎:髄膜炎の3徴と言われる意識障害、発熱、後部硬直は全てない。時間経過からしても考えにくい。
■脳腫瘍:頭痛が起きていると楽になるという訴えはない。前触れのない嘔吐なし。嘔気もない。クッシング現象なし。しびれなし。視覚障害あり。がんの既往なし。見た目での瞳孔不同なし。痙攣なし。
(脳腫瘍の3徴は頭蓋内圧更新と局所症状と痙攣です。よく早朝頭痛が脳腫瘍の症状として挙げられますが、早朝頭痛は薬物乱用性頭痛の方にむしろ多いようです。)
(クッシング現象は、高血圧なのに徐脈になっている状態で頭蓋内圧が亢進していることを疑える所見になります。)
(余談:よく高血圧から頭痛になってるんじゃないかということを聞きますが、通常逆で頭痛があるから血圧が上がっていると考えます。)
■急性緑内障発作:すでにレーザー治療済だが、視覚障害が気になるので、再質問する。見た目での散瞳、瞳孔不同なし。充血なし。抗コリン薬の服用が単発的でもなかったか念の為に確認したい。
■巨細胞性動脈炎:側頭部痛あり、高齢で持続痛あり、視覚障害あり、視覚障害の内容が気になるので再質問する。顎の痛みあり。下顎跛行か確認する。一年前の原因不明の既往もPMR(リウマチ性多発筋痛症)と考えれば、すべての現象がオッカムの剃刀となる。(オッカムの剃刀は下記の記事を参照して下さい)
【最も疑わしい疾患】
巨細胞性動脈炎が最も疑わしい疾患として挙がってきた。巨細胞性動脈炎の場合、機能予後が良くないので早め治療が必要となる。もう少し詳しく話を聞いたら、確信を得られるかもしれない。さらに質問することとした。
薬局症例#2-1 問題編 持続する頭痛を訴える高齢女性
高血圧で加療中の80歳女性。
頭痛を訴えて
かかりつけの薬剤師に相談しにきた。
【薬歴より】
80歳女性
高血圧で加療中、両眼緑内障をレーザー治療済み
バルサルタン80mg/day服用中
1年前に右肩から始まった両肩痛、上腕痛、右臀部から下肢の痛み、微熱で近医受診歴あり。貧血を指摘されるが診断はつかず、その後症状は改善した。その時2ヶ月で49kgから47kgに体重減少、倦怠感もあったが、その時の健康診断では異常なしと診断された。
喫煙なし/飲酒なし/夫と二人暮らし/
KT36.2℃/BP168/78/脈拍94/分
【今回の相談】
1ヶ月程前に右側頭部に頭痛が出現。2週間前より右頭皮に鈍い穿刺痛が持続する様になり、特に髪をすく時に痛みが増した。美容院で右側頭部の一部が赤くなっていることを指摘された。現在まで手持ちのアセトアミノフェン200mg/dayで対応していたが、あまり改善していない。次の定期受診まで2週間ある。我慢できない程ではないし、予定外で急に先生(医師)の所に行くと迷惑になるから、出来れば行きたくない。どう対処したら良いかかかりつけの薬剤師に相談しにきた。
Q.どう対応しますか?
1.このままアセトアミノフェン200mg/dayで、もう少し様子を見ましょう。
2.安全性の高い薬なので、400mg/dayに増量して様子を見ましょう。
3.2週間後と言わず、すぐに受診して下さい。
4.痛み止めの種類をNSAIDsに変えたら、よく効くと思いますよ。まずは薬の種類を変えて様子を見てみませんか?
5.まだ判断出来ないので、もう少し話を聞いてもよろしいですか?
薬局症例#1-3 解答編 咳止め服用後に気分が悪くなった女性
A1:咳はもう出ていないので、咳止めは中止。咳止め中止の理由を医師に報告。心療内科からパロキセチンを2週間前から服用していることとパロキセチンはCYP2D6の阻害薬であり、同じCYP2D6で代謝されるデキストロメトルファンによるセロトニン症候群の兆候が出ていたのではないかという意見を報告し対応を相談。
A2:メトクロプラミドはセロトニン症候群を悪化または再発させる可能性があるので、疑義にてドンペリドンに変更を提案する。
今後のプランは?
デキストロメトルファンは中止し経過を見ることとなった。パロキセチンは継続でよいか?
パロキセチンは10mgなら問題なく服用出来ていたようなので服用継続でも良いかもしれないが、セロトニン症候群の症状が出ていることを考えるとSSRIは一旦中止が良いと思われる。心療内科医師と相談が必要。
また今後併用薬のことを考えるとCYP2D6関連薬は治療再開時には避けた方が良く、精神科系の薬剤にはCYP2D6関連薬は多いので、心療内科に家族歴と今回の件からCYP2D6のPMである可能性をトレーシングレポートで報告した。
薬局症例#1-2 検討編 咳止め服用後に気分が悪くなった女性
Q1:咳止めは服用継続?
Q2:今回の処方に問題点はないか?
プロブレムリスト
#1.咳止めは継続した方がよいか
#2. 感染症の可能性
#4. デキストロメトルファンによるセロトニン症候群の可能性
#5. CYP2D6のpoormetabolizer(PM)の可能性
#6. パロキセチンはこのまま服用でよいか
#7. セロトニン症候群であればメトクロプラミドは症状を悪化させる可能性あり
【追加質問】
薬剤師「咳はもう全く出ていませんか?」
患者「はい。昨日薬を飲んでから全く出ていません。」
薬剤師「周りに同じような症状の方はいますか?」
患者「いません」
薬剤師「最近、旅行をしたり、動物に触れたりとかはないですか?」
患者「ありません」
薬剤師「咳が出た日にストレスを感じたり、運動をした時に咳が出ませんでしたか?」
患者「昨日の朝、母と喧嘩しました。その日の昼に運動をしたら咳が出て、苦しくなり学校を早退しました。」
薬剤師「今の症状は、いつ頃から出ましたか?」
患者「昨日薬を飲んでから、なんとなく気分が悪くなった気がします」
薬剤師「急な吐き気や嘔吐はありませんでしたか?」
患者「なんとなく気分が悪くなり、吐き気もしてきた感じなので、急ではありません。嘔吐もありません。」
薬剤師「現在は嘔気とめまいと発熱だけで他にはありませんか?腹痛とか下痢とか痺れとか」
患者「思いつきません...なんだかすごく不安です。」
薬剤師「何かこれをすると楽になるとか、悪くなるとかありませんか?時間帯で症状の強さはどうですか?」
患者「特に何かするとというのは思いつきませんが、今朝は少し楽になりましたが、薬を服用してからきつくなった気がします。」
薬剤師「妊娠の可能性はありませんか」
患者「病院で調べましたが、妊娠はありません」
薬剤師「パニック障害の薬を服用してから似たような症状はありませんでしたか?」
患者「ありません」
【検討】
咳の症状はもうなくストレスから咳が出現していた所からVCDにより咳が出ていた可能性あり。嘔気、発熱の症状も感染症より薬剤性の可能性が高いように思えた。家族歴からCYP2D6のPMである可能性が考えられる。今回パロキセチンを14日前から服用開始しており、パロキセチンがCYP2D6の阻害薬として働き、デキストロメトルファンの血中濃度が上昇しセロトニン症候群を発症した可能性が考えられる。また今回処方のメトクロプラミドもセロトニン症候群を起こす可能性があるので、他剤に変更した方が良いと思われる。
薬局症例#1-1 問題編 咳止め服用後に気分が悪くなった女性
心療内科からパニック障害の診断を受けパロキセチン服用中の22歳女性。昨日、咳嗽で内科を受診。デキストロメトルファンが処方され来局。本日、嘔気、めまい、発熱により同内科を受診。処方せんを持って再来局。
【概要】
22歳
女性
【患者からの質問】
昨日もらった咳止めはまだ服用した方がよいか?
【主訴】
嘔気、めまい、発熱
【処方内容】
Rp.1 メトクロプラミド5mg 1日3錠1回1錠毎食前2日分
Rp2. カロナール300mg 1回1錠発熱時頓服5回分
【既往】
#1. パニック障害
#2. 昨日からの感冒(咳のみ)
【薬歴】
#1. 14日前に心療内科よりパニック障害の診断を受け、パロキセチン徐放錠10mg/day開始。
#2. 1日前の日中、咳嗽がひどく学校を早退して内科を受診。症状は咳のみだが、感冒のはじまりかもしれないとデキストロメトルファン15mg8錠分4で様子を見るように医師より言われたとのこと。
S:「昨日のお昼に咳がひどくて受診したんですが、今は咳はなく、嘔気とめまいと発熱になったので再受診しました。昨日の咳止めは服用し続けた方が良いですか?」
O:待ち時間の間、終始落ち着きがなかった。
【患者情報】
学生/母親と二人暮らし/アレルギー歴なし/妊娠なし/
家族歴:母親がフレカイニドで不整脈、プロパフェノンでめまい、ふらつきの副作用出現あり
Q1:咳止めは服用継続?
Q2:今回の処方に問題点はないか?
オッカムの剃刀とヒッカムの格言
【目次】
臨床推論のルールに
オッカムの剃刀とヒッカムの格言
というものがあるそうです。
【オッカムの剃刀】
オッカムの剃刀(かみそり)とは…
「観察される全ての事象は1つの原因に収れん出来る」という考え方です。つまり、色々な症状がある患者に対して色々な疾患が併存しているのではなく、色々な症状を起こしている一つの疾患があると追求する方が妥当だという考え方だそうです。
「見た目は子供、頭脳は大人」の某名探偵風に言うと「真実はいつも1つ」ということでしょうか。
ちなみに海外ドラマの「ドクターハウス」シーズン1 第3話『多すぎた病名』でオッカムの剃刀の話が出てきます。内容はうろ覚えなので、気になる方は観ていただきたいです。
【ヒッカムの格言】
ヒッカムの格言とは…
「どの患者も偶然に複数の疾患に罹患しうることがある」という考え方です。特にコモン・ディジーズは複数同時に併存することも多いのだから、原因追求も複数の疾患に向けて行うべきという感じだそうです。
この二つのルールは全く逆の話になるのですが、ハリソン内科学のハリソン先生は、50歳未満ではオッカムの剃刀が、50歳以上ではヒッカムの格言の傾向が強くなると仰っており、二つのルールをうまく併存させながら判断して行くのが重要な様です。
ここで私がこのルールのことを思い出した2つの失敗例を紹介したいと思います。
【オッカムの剃刀だった症例】
ある70代の糖尿病歴の長い男性患者の服薬指導時に「結構前に足をくじいてから、ちょっと歩くと動かなくなるから運動できないんだよねぇ」と言われた症例です。
この時は糖尿病患者が単に足をくじいただけと思ったんですが、薬歴を見た別の薬剤師から「これ間欠性跛行(かんけつせいはこう)じゃないですか?」と言われました。
(※間欠性跛行とは、『一定の距離を歩くと、ふくらはぎなどにうずくような痛みやしびれ・疲労感があって歩行が次第に困難になり、しばらく休息すると治まるものの、また歩き続けると再び痛みだすという症状』のことです(厚生労働省eヘルスネットより引用)。原因の多くは血管性と神経性の2つに分けられ、ほとんどが下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)か脊柱管狭窄症です。)
私はハッとしました。
糖尿病患者が足をくじいたという関係のない別々の話ではなく、糖尿病患者だからASOを起こして、足をくじいたように感じた間欠性跛行の症状が出ていたのです。足をくじいてから時間が経っていたのに、治っていないという点も無視していました。
すぐトレーシングレポートを書いて主治医に服薬指導時の経緯を伝え、主治医がコンサルして下さいました。
【ヒッカムの格言だった症例】
これもASOの症例でした。
普段から高血圧で来局されている50代のヘビースモーカーの患者さんで、間欠性跛行の症状で整形を受診し脊柱管狭窄症の診断を受けて痛み止めをもらいに来ました。
すでに整形から脊柱管狭窄症の診断を受けていたので、間欠性跛行の症状はそれのせいだろうと思い、患者さんに内科等で血管の検査もしてもらうようにと強く勧めませんでした。
患者には「足の血管が原因になってることもあるから、心配なら内科にも相談するようにね」程度で済ませていました。
患者は強く勧められていないので自分から内科に相談することなく、暫く経ってASOが進行して内科の先生が手足の血圧の差がかなりあるのに気付いてASOも併存していたことが分かりました。紹介先でこんなになっても相談しないなんて...と言われたそうです。(相談すらされてないのに気付いた先生は本当に素晴らしい先生だと思いました)
間欠性跛行の症状に対して脊柱管狭窄症があるということは、ASOをルールアウト出来るわけではないと思い知りました。
この患者さんは整形も内科もかかっていることを知っている薬剤師に相談はしていたのに...両者の併存をもう少し強く疑っていれば、内科の先生に相談するよう強く勧められたのに...もう少し早く処置されていたかも...と思うと悔やまれました。
今回はハリソン先生のルールからは、ずれてしまいましたが、2つのルールは頭に入れておくと良いと思います。
皆様には私の失敗からご自身の成功に繋げていただければ幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
追記:ASOは近年ではPAD(末梢動脈疾患)と言うべきなのかもしれませんが、ブログですのであえて馴染みのあるASOの方を使わせていただきました。